好きじゃなくても、

題:あなたがまだ僕を愛してくれていた頃の話


「付き合ってるフリをしてたぁ?」

目の前にいる変な所で純粋で真面目な彼女の口から出たものは予想を上回るものだった。

昔付き合ってた人のことを聞いたのは俺の方だから嫉妬はしていないが。

「うん。半年くらいちゃんと?付き合って、それから1年ちょっとかなぁ……」

本人はもう過ぎたことなのか吹っ切れているのか、平然としている。

……まあ元々不思議な人付き合いの仕方をしていたのは聞いていたから信じられなくはないが。

「1年って……よく平気でいられたね」

「平気じゃないよ」

即答。平気じゃないのに続けたのか。

じわじわと俺の中にドス黒い感情が湧き出てくるのがわかる。

「最初はまぁ、好きだったから平気だったけど」

「うん」

その感情を気付かれないように意識しても声が低くなる。

「途中から私の方が冷め切ったのもあるし」

「何よりあっちが私のこと好きじゃなかったってわかったら……ね」

呟いた瞬間、少しだけ寂しそうな表情を見せた。

その表情を見て、抑えきれなかった。

「う、わわっ!」

「ゆ、優さん!?ど、どうしたの?」

耳元で知心の焦った声が聞こえる。

「ちょっと痛い……!」

その声でハッと我に返った。

無意識のうちに強く力を入れてしまっていたらしい。

背中をペシペシと叩かれる。

抱き締めたまま、少し力を抜いた。

「やっぱ話さない方がよかった?」

何も言わないこともあって怒ってると思ったのだろう。

申し訳なさそうにぽつりと呟く。

その声を聞いて、なんだかやるせなくて強く抱きしめてしまった。

「ちょ、痛い痛い」

さっきほど焦った様子ではないが抗議の声がする。

でも離したくなかった。

ずっと無言で力を抜かない俺の様子から諦めたのかふぅ、と軽く息を吐いた。

「ごめんね」

一言呟いたきり、黙ってしまった。

驚いて顔を見ると泣きそうな顔でこちらを見ていた。

「違う」

「聞いたのは俺だし」

「ただ、聞いてたら自分の中でなんか、よくわかんない気持ちが出てきて」

「それで、気付いたら体が勝手に動いてた」

話してるうちにこっちも泣きそうになった。

自分が何をしてるのかわからなくなった。

知心の悲しそうな顔を見てるのが辛くて必死になった。

「うん」

一言だけ、口元に少し笑みを浮かべて答えてくれた。

その表情には色々な感情が混ざっているように見えた。

「変な話しちゃったね」

そう言って、肩に顔を埋めてきた。

苦しませたくなかったのに。

知心は想像以上に弱くて脆かった。

割り切ってると思って聞いた自分が愚かだったのだろう。

酷く、後悔した。