ごめんね

題:あなたが好きになった私はきっともうどこにもいない


「変わったね」

唐突に口にされた言葉に驚く。

突拍子もないことを言うのはいつもだが、一言だけ言われると意味がわからない。

「何が?」

私が聞き返したことが意外だったのか、少し目を見開いてこちらを見る。

もしかしたら独り言だったのかもしれない。

「あー、いや、昔の写真見てた」

ほら、と向けられた画面には、入学した頃の写真があった。

同級生と何人かで集まって撮った写真。

皆今よりも少し硬い表情やポーズが何だか新鮮だった。

「数ヶ月前なのにもっと前の写真みたい」

どことなくぎこちない笑顔の私も写っている。

優に至っては笑ってすらいない。

確か、混ざる気はなかったのに巻き込まれたんだっけ。

当時のことを思い返しながら笑う。

「この頃は今みたいになるなんて思わなかった」

優とは専門学校に入ってから知り合った。

私はこの辺りに住んでいた訳じゃないから当然といえば当然だろう。

「…そうだね」

少し間を置いて答える。

何かを思い返していたのかもしれない。

私と優の共通点はいくつかあるけれど、それも最初は知らなかった。

なんで話すようになったのかは覚えているけど、私としては忘れたい。

近付くきっかけになったのは間違いないけど、それとこれは別。

「知心を最初見た時は凄い真面目な人だと思ったのに」

クスクスと笑う優に、頬を膨らませる。

「今だって真面目ですー」

私の答えを聞いて、きょとんとしたあとにさらに笑いだす。

何が面白いのか私にはわからない。

別にふざけてるわけじゃないんだけど…。

「あの頃はどんな人に対しても真っ直ぐに向き合ってたじゃん」

私は入学してからそんなに変わっていないはずだ。

その前ならまだしも、それを優が知るはずがない。

「あの頃の知心、好きだったな」

好きだった、という過去形で述べられた言葉が胸に刺さる。

まるで今はもう好きじゃないみたいだ。

今の私じゃダメなんだろうか。

そんな私の気持ちを知ってか知らずか、そっと背中に手を回す。

「今の知心が好きじゃないとかそういうんじゃないからね」

何だかんだ言って、私のことをよくわかってる人だ。

けど、優が一番最初に好きになった私はもういない。

変わらない方が、よかったのだろうか。

優の優しさに縋りながら、今更だな、と自嘲した。