そのまま、

題:あなたはきっと気付かない


「あーあ」

また、逃げ出した。

何も無い。

何も無いのに逃げた。

最初はちょっとした居心地の悪さだった。

それで、同じ教室内で離れるのも変だなって思って。

それから、事あるごとに気まずさが押し寄せてきて。

気がついた頃には教室にいることが苦痛になってた。

今では休み時間になる度に逃げ出す弱い人になってる。

何かあった時は友達を呼んで慰めてもらってる。

何も無い時は、いつも1人で泣いている。

何も無いのに泣いてしまう弱さを隠すために。

怖いのだ。敵意も、好意も。

全ての好意の底には敵意がこもってるように思えて。

「学校じゃなきゃ気付いてくれるんだろうけど」

「どうかこのまま、気付かないでいて」

なんて、嘘。

気付いてほしい。

何も無くても傍にいて欲しい。

そう思ってしまう私は欲張りなんです。

 

「あれ?知心ちゃんは?」

何も知らない女子がキョロキョロと辺りを見渡す。

「優くん、知らない?」

「んー?ずっとスマホいじってたからわかんないかな」

嘘。本当はどこにいるか知ってる。

「そっかぁ……」

「何か用事あったの?」

「ううん、そういう訳じゃないんだけど」

「そっか」

多分、他に話しやすい人がいないから知心と話して安心したいんだろう。

そんな無粋な予想を立てる。

知心は気付いてないと思ってるんだろうけど。

何故休み時間になる度にいなくなるかなんて想像に容易い。

怖いのだろう。人の敵意が。

例えそれが自分に向けられたものじゃないとしても。

俺は呼び出されない限り行かないようにしている。

別に行ってもいいんだけど。

気付いてほしいけど、気づいて欲しくない。

そんな気持ちなんじゃないかと思う。

人の目を気にする彼女のことだから。

だから俺は気付かないフリをする。