題:つないだ手
「…どうしたの?」
訝しげな表情を浮かべている。
そりゃまぁ…いきなり手を掴んだんだ。
驚くのも無理はないだろう。
「…わかんない」
なんたって、掴んだ本人ですら驚いてるんだから。
本当に、どうしていきなりこんなことをしたんだろうか
「…は?」
あ、ちょっと怒ってる。
何か理由…もとい言い訳をしなければ。
あぁ、頭の中がグチャグチャでうまく言葉が出てこない。
何だって、楽しいはずのお祭りでこんな不機嫌にさせてるんだろう。
結局、言葉が出てこなくて黙ることしかできなかった。
「…ちょっと移動しよ」
小さくため息をついて、それだけ呟いた。
早足で人混みをかき分けて進む。
怒られるよりも、呆れられることが怖くて冷や汗が止まらない。
あぁ、吐きそうだ。
*
人混みも、屋台も抜けた先で縁石に並んで座る。
未だ手は解かれていない。
移動中もずっと言い訳を考えていたけど、吐き気が考えを散らせてしまった。
つまり、何も浮かんでいない。
優も黙ったままだし、どうすればいいんだろう。
なのに手から伝わる体温だけは厭に優しいもので。
「落ち着いた?」
どうしようと堂々巡りする思考から現実に引き戻される。
顔を上げると優がじっとこちらを見ていた。
逆光で細かい表情までは読み取れない。
「…まだ、ダメそうだね」
私の表情を見てそれだけ言って顔を逸らした。
屋台の赤い光に照らされた横顔が眩しい。
本当に、何を考えているんだろう。
言葉の意味すら汲むことが出来ない。
「あの、」
もうどうにでもなってしまえ。
考えたって無駄なんだ。
「ん」
短く声が聞こえる。
「…ごめん」
何に謝ってるのかわからなかった。
「あのね」
グッと握る手に力が入った。
「そんなになる前に教えて欲しかったんだよ」
「…え?」
私が何も言わないから怒ってたんじゃないんだろうか。
どうにも、認識の齟齬がありそうだ。
「え?じゃねーよ。今にも倒れそうな顔してんだぞ」
まずい。
本当に理解が追いつかない。
わかることは、優の口調が荒くなるくらい怒らせたことだけだ。
「…え、いや、私が何も言わないから怒って…?」
頭の中が疑問符で一杯になる。
なになになに。
倒れそうってどういうこと。
「…はあ?」
呆れ混じりの声の後、一人で勝手に何かを察したようだった。
「もしかして、何も考えないで俺の手掴んだの?」
少なくとも、理由が浮かばないくらいには。とだけ心の中で呟いた。
「人混みで限界になったから掴んだのかと…」
優は深いため息をついた。
そしてやっと、手の力が抜ける。
「あ…えっと…なんか…ごめんね?」
どうやら、心配から怒っていたようだ。
もう一度謝るといいよ、とだけ言われた。
「気付いてないだけで顔色真っ青だったし」
全然気付かなかった。
冷や汗も全部、焦りから来てるのだと思っていた。
「自分のことに興味無さすぎ」
苦笑する優の声は優しかった。
「まだ回るかはもう少し良くなってから考えよ」
「う、うん」
一度も解かれなかった手から伝わる体温は落ち着くもので、私はまだそれに甘えていたい。