優しい君に、

題:どうかほんの少しだけ、私の嘘にただ優しく騙されたふりをして欲しい


「あー…」

今日はとことんダメな日になりそうだ。

寝坊するわ階段から滑り落ちそうになるわ…。

珍しくもない学校側の無茶振りはどうでもいい。

アルバイトを休むのに頭を下げまくって、ちょっと怒られただけだ。

予定が狂うのはいつものことだと言い聞かせる。

「なんで私まで…」

テストの平均点が隣のクラスより低かった。

ただそれだけの理由で土曜日なのに学校に呼び出される。

ほぼ満点を出したのに連帯責任みたいに巻き込まれたのだ。

「どうせやることないよなぁ」

強いて言うならば、勉強が苦手な人達に教えて回ることだろうか。

そこまで構っていられるか。

「はぁ…」

憂鬱な気分のまま外に出ると、銀世界が広がっていた。

「うーわ」

まだ除雪がされていない道は道とは言えないものだった。

足は取られるし、雪が入って冷たいし。

もう帰りたい気持ちが溢れてくる。

転ばないようにしつつも、どこかぼーっとしてしまう。

「いてっ」

風が強い。

風で雪が舞って、顔にペシペシと当たる。

「もー、最悪」

雪をほろっていると、後ろから何か聞こえた気がした。

振り向くと、少し離れた所に優が立っていた。

私に気付いている様だったので思い切り手を振ってみる。

軽く手を振り返して、こっちに向かってきた。

…何故か緊張した面持ちで。

何を緊張してるのかなんて知ったこっちゃないけど。

「おはよ」

「おはよう。バイト休めた?」

話し始めた優はさっきまでの緊張感を失っていた。

ただ、ほんの少しだけいつもと様子が違うだけだった。

「休むの大変だったよ」

実際は休みじゃないけど。

「そっか」

いつもと変わらない、私が話して優が相槌を打つ会話。

その最中、視界を地吹雪が奪っていった。

全てを攫ってしまいそうな風に身を委ねてしまいたくなった。

本当はそんなこと望んでいないのに。

「雪まみれじゃん」

お互い様だよ。

私が何を望むのか分からなくなった。

そんな気持ちを悟られないように早く行こうとだけ言った。

「知心」

不意に私の名前を呼ぶ。

「何?」

振り向くと真面目な顔をしていた。

その真面目な顔を崩すことなく優が呟いた。

「あんまり誤魔化すのはやめてね」

「…分かった」

嘘を返した。

今更素直になるのは難しい。

嘘で塗り固めた私にもう少しだけ騙されていて欲しい。