題:ねえ、愚かで愛しい人よ
「ゆーう?」
「何?」
「顔、やばいよ」
「…そうか?」
確かに寝不足気味だが、そんなに心配される程酷くはない…はず。
さっき鏡見た時は少なくとも大丈夫だった。
「隈すっごいことになってる」
ちゃんと寝なよ、と困ったように笑う知心はどこか眩しく見える。
ゲームして寝不足とかではなく、就活の用意やら試験勉強やらで眠れてないだけなんだがな…。
バイトだって減らしたし、何より最近ゲームを出来てなくて地味なストレスになっているくらいだ。
「根詰めすぎると倒れるぞー」
「先週倒れたもんな」
「うっ…」
露骨に顔を引き攣らせた。
「過労だっけ?」
「睡眠不足です…」
思わぬ反撃に目を泳がせて、用事を思い出したと逃げ出した。
昨日暇だと言っていたのは誰なんだか…。
「…帰るか」
少しでも早い時間から始めれば一時間くらいは長く眠れるだろう。
そこまで急がなくても良いのかもしれないが、どうにも進路指導の教師に目を付けられてるからその辺は真面目にやってるていを装った方が色々楽だろう。
特に何もしてないんだけどな…。
いや、逆に何もしなすぎてとかそういうパターンか?
「試験前だってこと忘れてんじゃねえの…」
週二くらいのペースで呼び出されてる気がするが、来月にはもう試験だし勘弁してほしい。
しかも俺くらいだし…。
何を話すって対したことじゃない。
お小言と孫自慢を毎週聞かされるのはうんざりしてきた。
「…待ってたの?」
「待ってた」
さっき飛び出していった知心が教室の入口にいるのはちょっと予想していなかった。
「帰るか」
「帰ろ帰ろ。先生来たらうるさいし」
*
「そういえば、知心はもう大丈夫なの?」
「寝てます」
「早口で食い気味に来る時は大体嘘だよね」
教室でもそうだったが、何故こうもすぐにわかる嘘をつくのか。
一年近く一緒にいて気付かないとでも思ってるのか。
またうろたえてるし…嘘つくの本当に下手くそだな。
「俺に寝ろって言うんだから自分もちゃんと寝ろ」
「はぁい」
まあお互い様か。
俺もちゃんと寝ないと知心のこと言えないな。
なあ、知心?