勝敗

題:もう貴方しか好きになれない


「そういえばなんで俺だったの」

付き合うようになってからずっと疑問に思っていたことを口にする。

知心は口を開けてポカンとした表情を見せた。

「なんで…なんで?」

「俺に聞かないでくれ」

知りたいのは俺だし、知心の答えを持ち合わせているはずがない。

とは言え面倒臭い彼女みたいな質問をしてしまった気がする。

どんな答えでも傷付く可能性の方が高い。

「なんでだろうね、直感かなぁ」

知心が出した答えはいまいちピンと来なかった。

直感で付き合う相手を決めるな。

進学先選びじゃないんだぞ。

「なんかさー、初対面でこの人とは仲良くなれそうとかそういうの、ない?」

そんな感じだよと言って俺の顔を覗き込む。

どうやら俺が納得したかどうかを知りたかったようだ。

上目遣いで見られるとドキッとするからやめてほしい。

「まあ…そういうことにしとくわ」

「優はどうなの?なんで私と付き合うことにしたのか、私も知りたいなぁ」

なんでって好きだったからだよ。

一目惚れに近かったけど、どうしても話し掛ける機会がなかった。

知心の中では同級生Aとかそんなレベルだっただろうし、その状況で告白なんてするか。

「想像に任せる」

俺から教えてやる気はない。

だって恥ずかしいし。

「ずるくない?」

不満げに口を尖らせているものの、ちょっと笑っているのが隠しきれていない。

その内教えてもいいとは思っているが、今はまだ恥ずかしい。

そもそも俺は知心のことを知ったのは今年じゃないし。

当時のことはできる限り隠したいんだよ。

「また今度ね」

その今度がいつかは分からないけどな。

「ちぇー」

少し残念そうに拗ねる彼女が可愛らしくて、少し意地悪をしたくなってしまう。

「惚れた弱みってやつですねぇ。優なら仕方ないなって許しちゃう」

「こういうのは先に惚れた方が負けって言うからね」

じゃあ私の負けだ、と言う笑顔が眩しかった。

お互いに一目惚れなんだけどな。

好きじゃなかったらあんなに気にかけてないっての。

「まあ今こうやって一緒にいるし、俺だって知心の突拍子もない発言許してるからな」

お互い様だよ。

本当に、惚れた弱みってやつは怖い。

美人とか見掛けても知心の方が断然良いと思ってしまうし、他の人を好きになることはきっと無いんだろうな。

知心はその限りじゃないかもしれないが。

「えへへ、いつもありがとう」

「どういたしまして」

この笑顔が他の男に向けられないことを祈るばかりだな。

本当に負けてるのはどっちなんだか。