見えない

題:オッドアイ


ここ数日、左目の充血が酷く、痒かった。

病院で角膜炎と言われて目薬をささなきゃいけなくなった。

うーん。眼帯はあまり得意じゃない。

片目だけだと距離感が掴みにくくてあちこちにぶつかりそうになるし、利き目である左目が見えないせいですごく疲れる。

このままじゃ外に出るのが一苦労だ。

…まぁ、学校もアルバイトもあるから嫌でも外出するのだが。

「おはよう」

「うわぁ!?」

左側から声をかけられる。

ギリギリ死角だったせいで跳ね上がってしまった。

「酷くない?」

笑っているしそこまで気にしてはいないと思う。

「先名さん朝早くないですかね」

「日直~」

そう言った優の手元には日誌があった。

そういえば昨日の夜から朝忘れないとか騒いでたなぁ…。

「で、その目どうしたの?なんか封印してんの?」

「中二病かな?」

ごめんごめん、とこらえきれないといった風に笑っている。

言いたくなる気持ちもわかるけど、成人間近としてはどうなんだろうか。

「なんか目付き悪くない?」

よく見えなくて歩くのが怖いから目を細めていたせいだろう。

「あんまり見えないんだよね」

「普段コンタクトとか眼鏡してなかった?」

…どっちも常用はしてないけど。

「コンタクトはアレルギー出る時期だからダメで、眼鏡は眼帯のせいでずれるからしてない」

そういうと、コンタクトに関しては納得したようで、あぁ、と呟いた。

「眼帯って貼るタイプなかった?それなら眼鏡かけれると思う」

「周りがかぶれて痛くなっちゃって」

「あぁ…肌弱いと大変だね」

普段から化粧も何でも肌の弱さであまり出来ないことを知っているからか、それ以上はツッコミを入れてこなかった。

動き方と声から、少し申し訳なさそうにしていることがわかった。

表情も少し困ったように見える。

段々人も増える時間になってきて、すれ違う人が多い。

手元を見ながら歩いてる人も多いせいで、ぶつかりそうになる。

いつもより狭くボヤける視界でこれは結構怖い。

…たまに舌打ちされるし。

 

 *

 

やっとの思いで教室に着けた。

優が付いててくれたお陰で、階段で転んだりはしなかった。

「おはよー、って何、邪気眼?」

「お前もか」

この学校の人は中二病の発想が強い。

「それ俺もやった」

似たような会話をさっきもしていたせいで優は面白がっている。

「いやもう眼帯見たら聞かなきゃいけないかなって」

よく分からない使命感をお持ちのようで。

優とクラスメイトが変に息ぴったりなのが面白おかしい。

「そういえば目どんな感じなの?」

「今?今ちょっと痛い」

「えぇ…」

充血してるって言うべきだった気がした。

症状について聞かれてたと後々気づいた。

「目薬とかは?」

「あっ」

言われて思い出した。

「朝さしてくるの忘れてた…」

「えっ」

「ボケてきてる?」

優には驚かれるしクラスメイトには煽られる。

「今さしなよ」

「ついでに邪気眼見せて」

心配してるのかしてないのかハッキリしないなこの人たちは。

ツッコむ気力もなかったので言葉は飲み込んだ。

そっと眼帯を外すと向かい側にいた優がびっくりしていた。

「結構ひどいんだね」

「そう?眼帯する前はだいぶ治まってたけど」

「いやいや真っ赤になってるよ」

痛みの原因は悪化だったらしい。

鏡を取り出して見てみると最後に見た時より酷くなっていた。

「オッドアイみたい」

「オッドアイって黒目の色が違うやつなんだけど…」

充血して白目の色が変わってるのは違う気がする。

「本当に邪気眼みたいになってるね」

横から覗き込んでたクラスメイトがいじってくる。

「あーじゃあ次は左手あたりに包帯巻いてくる感じ?」

優が乗っかる。

二人共楽しそうだ。

そんな中水を差すのも悪い気がするけど。

「ねーよ」

流石にツッコミを入れた。