切り取った時間

題:カメラ


「写真かぁ…」

イベントの集合写真を買うかどうか、ホームルームで先生が話していた。

集合写真は別にいらないんだけど…。

それよりも友達と撮り合った写真の方が欲しい。

「知心は買うの?」

隣にいる優に聞かれた。

優の手元には紙飛行機に形を変えたプリント。

それさっきのホームルームで配られた購入案内じゃないか。

買う気が無いにも程がある。

せめて家で作れ。

「買わないかな」

写真写り良くなかったし、という本音は仕舞っておいた。

「俺も」

そう言いながら紙飛行機を飛ばすふりをする。

本当に興味ないんだなぁ…。

「買う人はプリントを紙飛行機になんかしないでしょ」

そう言うと確かに、と言って笑った。

何回も飛ばすふりをして、ようやく飛んでいったそれはゴミ箱の縁に当たって落ちた。

惜しかったな。

「あーあ」

肩を竦めながら紙飛行機を取りに向かう。

拾い上げて、そのままゴミ箱に入れ直した。

「下手くそ」

私が笑うと優も情けなく笑った。

「帰ろ帰ろ」

恥ずかしいのかそそくさと鞄を持ってドアの方に向かう。

「あー、待って職員室行かなきゃ」

その背中に声をかけると、ドアの前で立ち止まった。

振り向いた優の顔からは恥ずかしさが消えていた。

「何かあったの?」

今日は課題もないし、写真だって買わないから出すものはない…んだけど。

「なんか実家に送った書類が戻って来たんだって」

引っ越した話は聞いてないから詳しいことなんか知らない。

そもそも親としきりに連絡とるほど仲良くもないし。

「親に連絡は」

「姉から旅行中だって連絡来た」

暫く実家にいないから、なんてどうでもいいことを言われたと思ったけど呼び出された時に説明できるだけマシなんだろうか。

連絡と一緒に送られてきた写真。

両親と姉と、親戚の子供たちの笑顔の写真。

私がいない、いても面白くもなんともない空間。

私が実家に置いていったカメラを使ったらしい。

昔私が撮った写真は全部消されてしまった、とも聞いた。

私の好きな瞬間を詰め込んだカメラにはもう、切り取った時間は残っていない。

「知心?」

優の声で我に返る。

もう過ぎたことだし、今はこっちでカメラを買ったからどうでもいいことなのに。

「んー?」

あれは思い出と共に捨てたものだと割り切る他ない。

仕方ない、仕方ないと心の中で言い聞かせる。

「ぼーっとしてるけど、大丈夫?」

心配そうな目を向けてくる。

優の後ろ、窓から見える夕焼けは写真に残したいとは思えなかった。

「大丈夫だよ」

色褪せていく景色を残すことはもうないかもしれない。