甘党

題:ザッハトルテ


ザッハトルテ。チョコレートの王様とも呼ばれるお菓子。

「知心はやっぱり好きだなーとか、食べたいなーって思うの?」

私がチョコレートを好きだと知っているからこその質問だろう。

安物のチョコレートを頬張る私を面白そうに見ながら問う。

「私、ザッハトルテ好きじゃないよ」

予想しない返事だったのだろう。

きょとん、と驚いた顔を見せる。

その顔が何だか少し可笑しくて笑いそうになってしまう。

「意外」

「チョコレート好きなのにチョコレートの王様は嫌いなんだ」

少し厭味たらしく言う。

不敵な笑みを浮かべるその顔はちょっとずるいと思う。

「だって」

「フルーツジャム使ってるんだもん…」

私はフルーツが嫌い。

食べれるものもあるけど、ジャムとかにされるとそれすらも食べられない程に。

その返事を聞いて合点がいったのか、納得したような表情を浮かべる。

さっきまでの不敵な笑みはどこへやら、いつも見せるあどけない表情に変わる。

何だかんだ言って、彼も表情がコロコロ変わる人なのではないだろうか。

「でもジャムなかったらくどくて食べれなさそう」

「だから私はチョコは好きでもチョコレートケーキとかは苦手なんですー」

よく甘党と言われるがあくまでもチョコレート限定だ。

自分が偏食だって自覚はある。

「甘いだけだと結構辛いけどマーマレードとかあるより…耐えれる…」

「どんだけ嫌いなの」

子供のように拗ねる私を見て、堪えきれないと言った風に笑い出す。

たまに子供扱いされてるんじゃないかと思う。

一応、同い年なんだけどなぁ…。

「体弱いんだからもう少し好き嫌い減らそうよ」

私が病弱なのを知ってるからこその優しさなんだろうけど。

「私偏食…食べれないもの多い…」

特定のもの以外は胃が受け付けなかったり飲み込めなかったり。

その時の精神状態次第だけど食べれるものは結構少ない。

「食わず嫌いは直さなきゃね」

悪戯っ子みたいな笑い方。

知ってて言ってるんだろうな。

「優くんは甘くないんですね」

精一杯の反抗。

「甘いだけじゃくどいし飽きるから」

「たまには酸っぱくないと」

口に含んだチョコレートはくどいくらい甘かった。