空を翔る

題:ドラゴン


夢を見た。

空を飛ぶ夢。

広い広い空を、なにかの上に乗って自由に飛ぶ夢だった。

「いたっ」

ベッドから落ちて目が覚めた。

見慣れた天井。

ここは空でも、なにかの上でもない。

空に、自由に、憧れたんだろうか。

夢で乗っていた『なにか』。

私にとっては大して興味もなく、夢でも無縁な存在だと思っていた。

「ドラゴン…かぁ…」

落ちたせいで痛めた腰を擦りながら布団を直す。

まだ朝の四時半。

外は少し明るくなってきていた。

寝直そうかと思ったけど、目が覚めきってしまった。

「暇だなぁ」

今日はお昼過ぎから優と出掛ける約束をしているけど、午前中はやることが全くない。

直した布団の上に寝転がって天井を眺める。

夢で見た景色はもう朧気になり始めていた。

やっぱり、夢なんてそんなものだよなぁ。

ドラゴンも、空を飛ぶ自由も、所詮はお伽話でしかない。

私はこの窮屈な現実の中で生きていくことしか出来ない。

秩序の中での自由に大きな不満があるわけでもない。

それでも、一度全てを投げ出してみたいとも思ってしまうわけだ。

それが夢に出てきた…。

そういうことにしておこう。

でもまぁ、夢でも空を飛べたのは気持ちよかったなぁ。

 

 *

 

突然携帯が鳴った。

慌てて飛び上がると、優からの電話。

出ると優の不機嫌そうな声が聞こえた。

『今どこ』

時計を見ると、待ち合わせの時間をとうに過ぎていた。

どうやらあの後寝てしまったらしい。

「い、家…」

恐る恐る答えると大きな溜息の後、そうだろうと思ったよと言われた。

『俺今家の前にいるから』

「えっ!?」

待ち合わせ場所は家じゃない。

駅だったはずだけど。

いやそれよりも。

「…何も用意出来てないので待ってください」

はいはい、と呆れた声が返ってくる。

着替えてすらいないから、家にあげる訳にもいかない。

バタバタと音を立てながら用意をする。

あれやこれやと鞄に荷物を詰め込んで勢いよく家のドアを開けると、呆れ顔の優が本当にいた。

「はい遅刻ー」

そういった優は意地悪に笑っていた。

…怒ってないんだろうか。

「珍しいね」

いつも俺より早いのに、と言いながら歩き出す。

その斜め後ろを駆け足で進む。

「なんか、夢を見ちゃって」

そんな他愛もない話をしていると、少しだけ強い風が吹いた。

上には青空が広がっていて、夢に見た空間のようだった。