内緒。

題:ヘッドホン


「ふぅ…」

ようやく書き上がったレポートを保存しながら息をつく。

金曜に提示されたレポートの課題。

期日は明日、月曜。

担任が伝え忘れて別のことをして潰れた授業。

本当ならその時間にやらせたかったらしいが、このザマだ。

「っとと、USBに入れなきゃ…」

 ただでさえ苦手なレポートだった。

金曜の放課後に限界まで残ってやっても終わりゃしない。

ネカフェか、最悪手書きか。

まぁ、見かねた知心が声をかけてくれたのでそれは免れたが。

それで、土日と連続して知心の家にお邪魔することになった。

時計は1時半を指している。

終電は1時間前に過ぎ去っていた。

土曜は終電ギリギリで帰ったが、今日は無理か。

予想はしてたし、知心も泊まることに関しては別に構わないらしいからお言葉に甘えることにした。

「知心、終わった」

明日の用意をしてある鞄にUSBを仕舞いながら家主に声をかける。

最後に見た時はヘッドホンをしてゲーム中だったから聞こえてないのかもしれない。

見ると、ヘッドホンをしたまま寝息を立てていた。

「あぁ…」

睡眠欲に忠実なこいつがこの時間まで起きてるとは思ってなかったが、せめて布団に入って寝てほしい。

なんか、風邪引きそう。

そういえば、土日殆どパソコンを借りてたけど知心はレポート大丈夫なんだろうか。

「よっ、と…」

布団をかけてから、毛布を一枚拝借する。

ヘッドホンを外そうとして、その手が止まる。

そっと耳元に近付いて呟いた。

「ありがとう。大好きだよ」

仮に起きてても聞こえてないだろうし、たまにはこのくらい言ってもいいだろう。

普段は恥ずかしくて言えやしない言葉。

起こさないようにそっとヘッドホンを外して、部屋の電気を消した。

 

 *

 

パチン、と部屋の電気が消える音がしてそっと目を開く。

優は私が寝たままだと思ってたらしいが、本当は途中から起きていた。

流石にまだ寝てないだろうから、動かないでいるけど…。

ヘッドホンつけてても、聞こえるものは聞こえるんだよね。

多分普段は言えないから寝てる上にヘッドホンしてるから聞こえないだろうと思ってのことなんだろうけど。

このヘッドホン安物だし、ノイズキャンセラーないから外の音結構聞こえちゃうんだよね。

正直寝た振りしてるのしんどかったくらいには恥ずかしいし、今もまだ悶えてる。

あー…寝れなくなった。

まさかあんなことする人とは思いませんし。

近づいた時にふわっとしたいつもと違う優の匂い。

家のシャンプーの匂い。

そしてあの言葉。

全部が優らしくなくて、変な感覚がする。

大分暗闇にも慣れて、そっと携帯の時計を見る。

2時10分。

流石に寝ないとまずい。

そっと気付かれないようにベッドの下、床を見る。

貸した毛布に包まって眠る優がいる。

丸くなって寝てるのが、小動物みたいでちょっと可愛い。

久々の独りじゃない夜。

優は泊まる気はなかったらしいけど、私は嬉しい。

金曜と土曜の夜中にレポートを頑張ったかいがある。

「朝起きたらビックリするかな…まぁいっか」

静かにベッドから降りる。

近付いても優は起きない。

落ち着いた寝息を聞いていると、私も眠くなってきた。

たまには、誰かを泊めるのもいいかもしれない。