海と手紙

題:ボトル


半年ぶりに地元に帰ってきた。

最後に来た時よりも、少しだけ寂れてしまっていた。

スーパーにお客さんが取られてしまって、商店街にはシャッターが増えた気がする。

私もスーパーを使ってたからあまり思い入れはないけど、それでも少し寂しくなった。

元々少し気持ちが落ちてたのもあって、余り居たくなかった。

自然と海に足を運ぶ。

高校生の頃まで何かあると行っていた場所だ。

全然人気がなく、地元の人がたまに散歩してるくらいの場所。

海に入るにはあまり綺麗じゃないし、外れの方だから観光客はいない。

聞こえるのは風と波の音くらいで心地いい。

夕日が反射して橙色にキラキラしていて少し眩しい。

夏が終わりかけでも今年はまだ暑い。

「涼し」

薄着で歩いていて丁度いいくらい。

夜になったら寒いかもしれないけど。

木とか色々流れてきている中で、ガラス瓶を見つけた。

破片はあっても瓶は珍しくて近くに行って覗いてみると中に手紙が入っていた。

メッセージボトル。

知っていたけど実物を見るのは初めてだった。

興味本位で中身を見た。

そこには''Je souhaite le bonheur''と書かれていた。

「…何語?」

日本語ではないそれは、この海を渡ってここまで流れ着いたのだと悟った。

普段使っている日本語や、学校で教わった英語とは違う言葉。

これを書いた人はどんな思いだったのだろう。

届けたい相手がいるなら普通の手紙やメールでいいだろう。

言えない思いを吐き出したは良いものの、見られたくないから流したのか。

見ず知らずの人間に何かを知って欲しかったのか。

それとも、淡い期待を抱いたのか。

私には見当もつかない。

携帯で調べてしまえば、すぐに答えか、ヒントがわかるだろう。

知りたいという好奇心が生まれて携帯を取り出した。

画面に表示される夥しい数の通知を見て、自分がなんで滅入ってたのかを思い出した。

ずっと人に合わせているのが疲れたのだ。

だから、静かなここに来た。

そっと携帯の電源を切って、ボトルを軽く拭いてから鞄にしまった。

家に外国語の辞書は何種類かあったはずだし、たまにはアナログなのも悪くないだろう。

夕方の波を眺めながら、そんなことを考えていた。