名前

題:世界の全部が君にとって優しいものでありますように


「名は体を表すって、よく言うよね」

「…で?」

今度は何を見たんだ知心は。

何の脈絡もなく話題を出して来るし、着地点もない。

最近は慣れてきたものの、たまに反応が遅れてしまう。

「優もその名の通り優しい人だよなぁって思って」

そういうことか。

別に俺は優しい人じゃないんだけどな。

そりゃあ知心には優しくしようと心掛けてはいるが、それだけで優しいと言われても。

「優が怒ってるところ全然見ないもん」

「怒らないから優しいっていうのは違うと思うけど」

それに怒ることはそこそこあった気がする。

「でも優の為に怒ることはあんまりなくない?」

言われてみればそうかもしれない。

多分怒る程気にしてることがないだけなんだが。

「いつもありがとう」

「…おう」

俺に出来ることなんてたかが知れているのに、知心はやたらと嬉しそうにする。

それだけで頑張れるというか、紳士的に対応しようと思わせるんだよ。

知心が今までどんな風に生きてきたかは分からないが、思い出したくないようなことが多かったようだし。

せめて俺の手の届く範囲では守りたいと思うだけだ。

「あぁでも、もう少し会話はしたい」

情けない顔で笑う知心はどこか寂しそうだった。

「善処する」

何を話せばいいのか分からないんだよな。

お互いの趣味嗜好が微妙に合ってなくて話題の提供がし辛いし、何が喜ぶのかもイマイチ掴みきれていない。

直接いる分にはいざとなればチョコレートを用意すればなんとかなるんだが。

そうじゃない時にどうしたらいいのか…。

「ほら、そうやって私のお願いを叶えようと悩む」

知心がくすくすと笑う。

弄ばれてるのかこれは。

「真面目だねぇ」

無理にとは言わないからと言いつつも、きっと本音だろう。

寂しい思いをさせてしまっているのかもしれない。

「そんな深刻そうな顔しなくていいと思うんだけど」

深刻に受け止めている気はしないんだが、そんな顔をしていたんだろうか。

「まあ…色々考えてたから」

知心の苦しみを少しでも和らげられたらそれでいい。

あわよくば、この先は優しいもので溢れているように、 俺は俺に出来ることをするから。