言葉を棄てた

題:伝えたいことは山ほどあるのに、適切な言葉を持っていないの


「どうした」

「どうしたんだろう」

優に会う前は色々話そうと思っていたのに、いざ目の前にすると言葉は出なかった。

いや、うん。

なんだっけ。

「突然抱き着かれるとビックリするんだけど」

「わかる」

分かってるならやるなよ…という呆れた声は聞かなかったことにしよう。

そもそも最近会えてなかったんだからそのくらい許してほしい。

「なんか用事あったんじゃないの?」

そう言いながら優は困ったような、呆れたような笑顔を見せてくれる。

頭の中で色んな言葉が浮かんでは消えていく。

どれもこれも今の私が言いたいことに合わない気がしてならない。

会いたかった?何してた?

どれも違う。

何かが違うのだ。

「忘れた」

そういってとぼけておく。

会えたら全部吹っ飛んだ。

結局会いたかっただけなのかもしれない。

「変なの」

何かあったのか探るように私の顔をじっと見つめて来る。

残念だけど今回は特に何もなかった…と、思う。

そりゃ確かに一回帰省して辛くなって電話しましたけども。

…そういえばあの時デートの約束して結局そのままなぁなぁになってたような。

「だって授業ないし、バイトだし」

私はまだ身内ってことで融通が利くけど、優はそうも行かない。

クリスマスとか年末年始とか、ほとんど休んでないのも知ってる。

「まあもうすぐ就活始まるし、そうなったらバイト減らすけどね」

就活あるから結局都合のつかない日の方が多い気がする。

私も私で忙しくなるからお互い様なんだけどさぁ。

「んで、電話で話してたの。いつがいい?」

「うん?」

電話。

電話と言われるとこの前のアレだよなぁ。

アレ以外に電話してないし…。

「デートの約束、したじゃん」

忘れたの?なんて首を傾げる姿は可愛くて仕方がない。

常々思うが、優は自分の容姿をよくわかっている。

私がどういう動作に弱いかもよーくわかっていて、厄介極まりない。

「本当だったんだ」

優から誘って来るのは何だか不思議な感じだ。

嬉しくない訳ではない。

ただ何て言えばいいんだろう。

らしくない、とでも言おうか。

とにかく不思議なのだ。

「正直者だからね」

そういって笑う優の顔を見たら、下手に飾った言葉なんて必要ないんだと思えた。