箱の中のお話

題:偽装貨幣


「何見てんの?」

ぼーっとテレビを見つめる知心に問いかけた。

疲れていてるのだろうか、ここ最近は反応が鈍い。

「んー…なんだろ」

おいおい…。

テレビを付けるだけつけて、内容は一切頭に入っていなかったらしい。

大丈夫なんだろうか。

「…偽装貨幣、あったんだって」

ただ映し出された見出しを呟いた。

偽装貨幣。

何年かに一度はニュースになる気がする話題だな。

祭の屋台とかで多いような気がする。

「わかんないもんなんだね」

確かに、わかりそうなものだよな。

どれだけ精巧に作られてるかは知らないが、そこまで気付かないものなんだろうか。

「忙しかったり暗かったらわかんないのかもね」

俺はアルバイトでもレジに立つことはないのでどんなものなのかわからないが。

プリンターで印刷しただけならわかるような気もする。

お年寄りが経営してる個人商店なんかじゃそうもいかないのかもしれない。

「うーん、私の所も自動だからそういうのは認識されないと思うしなあ」

知心も余りピンとこないみたいだった。

実際、殆どの人間が偽装貨幣に触れることはないだろう。

こういうものは一度経験しないとわからないものなのかもしれないな。

「なんか」

目を逸らさずにポツリと声を零した。

「現実味、ないよね」

この街じゃ話題になることなんかないしな。

こういう気の緩みがダメなんだ、と言われたとしてもだ。

所詮はフィクションと同じ、テレビの世界にしか感じない。

不謹慎だけど、一度見てみたいと思うほどに。

「本当の話なのかな」

嘘のニュースだってこともあるかもしれない。

けど、こんな内容をバラエティでもないニュース番組でやるのは些か趣味が悪いだろう。

そう伝えると知心はふっと笑って呟いた。

「これが夢かもしれないよ」