題:僕だけの天使を捕まえた
「寒い」
嘘。
そこまで寒くない。
人肌恋しいのは事実だけど、素直に甘えたいと言うのも恥ずかしいのだ。
自分が甘えたがりっていう自覚はある。
「はいはい」
イマイチ素直になれない私のことを知ってか知らずか、クスクスと笑いながら優は傍に居てくれる。
触れているようで触れていない距離。
軽く横に体を預ける。
優の高めの体温が伝わってくる。
高め、と言っても低体温の私と比べての話だから普通なのかもしれないけど。
いつだったか忘れてしまったが、そんな話をした気がする。
お互いに言葉を発しない静かな時間が流れる。
普段なら焦って話すが、たまにはこういうのもいいだろう。
左側から伝わってくる温もりを感じながら、ゆっくりと目を閉じた。
*
知心にしては珍しく、静かだった。
最初に寒いと言ったきり、何も言わなかった。
そっと隣に座ると、俺の右半身に僅かな重さと、温もりを感じた。
同時に、ふわりとシャンプーの甘い匂いがした。
横目で見ると、何も言わず携帯をいじっている知心がいた。
無理に喋ろうとしない彼女を見て、たまにはいいかと思って俺も携帯に意識を向けた。
*
ふと時計を見ると、30分ほど経っていた。
知心はまだ肩に体を預けている。
流石に疲れてくるし避けてもらおうと思って声をかけた。
「知心」
反応は無かった。
この位置だと顔があまり見えない。
「知心、流石に肩疲れてきた」
さっきより少し大きめの声を出したが、やはり反応はなかった。
その代わり、僅かに寝息が聞こえた。
余りにも静かだと思ったら、そういうことか。
最近忙しそうだったし、疲れているのだろう。
無理に起こすのも可哀想だ。
…が、肩が辛い。
起こさないように気をつけながら、姿勢を変える。
所謂膝枕になっているが、この際気にしないでおこう。
それにしても、全く起きない。
大分前に一度寝たらなかなか起きないと言っていたのを思い出した。
そして、寝付きが悪いということも。
そんな彼女が寝られるということは、俺に対して警戒心がないと言うことなのだろう。
有難いことだが、これでも男だ。
ここまで無防備だと少し複雑な気持ちになる。
伸ばしているらしい髪をクルクルといじりながら考える。
いっそのこと襲ってしまおうかと思った。
その一線を超えてしまうのは簡単だろう。
けど、それで彼女が起きた時どう思うだろうか。
折角開いてくれた心をまた閉ざしてしまうのだろうか。
そう思うと、自然と我慢出来た。
今はまだ、このままでいい。
柔らかく寝息を立てる彼女の顔を見るとそう思えた。