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題:君がぜんぶ忘れてしまっても、僕がぜんぶ教えてあげる


「ねぇ優。もし私が突然記憶喪失になったらどうする?」

「は?」

いつものことながら、彼女は突然変なことを言い出す。

大方、記憶喪失ネタの話でも見たのだろう。

「いやさ、記憶喪失になったら優のことも忘れちゃう訳じゃん」

「はあ、そうだね」

どうやら話は続くらしい。

知心は割とマイペースなのでどうせ話終わるまで続くだろう。

仕方がない、付き合ってやるか。

「そうなったら一緒にいてくれるのかなーどうかなーって思ったんですよ」

「ふーん」

個人的にはどうでもいいし大して興味も湧かないがとりあえず考えてみる。

俺のことを知らない、ねえ。

俺だけが知っていて、知心は知らない。

あ、ちょっと辛いかも。

「めっちゃ悩んでるね」

知心はからかうように笑っている。

話を振ったのはそっちだろうが。

「まあ、一緒にいるんじゃない」

俺の返答に知心は、鳩が豆鉄砲食らったような顔をした。

「何その顔」

「いや、なんかビックリした」

そう言って欲しかったんじゃないのか。

てっきりそう言って欲しいから話を振ってきたんだと思っていた。

「一緒にいてくれたら嬉しいなーとは思ったけど、優ならいなくなりそうだったから」

俺の印象どうなってんだ。

冷酷なやつだと思われてんのか。

「それは流石に傷つくわ」

俺の言葉に知心は違う違うと笑いながら否定した。

「一緒にいるの辛いっていなくなりそうだなって」

さっき考えてたことバレてんじゃねえか。

でも辛いからっていなくなりはしない。

そんな理由で知心の前からいなくなるほどメンタルは弱くない。

「忘れてんなら全部思い出すまで教えるだけだよ」

一つ一つ反芻するように。

思い出さなくても、そういうことがあったと教えてやる。

「そっか。そっかぁ」

嬉しそうに笑いながら知心は納得したようだった。

気の抜けた笑顔が眩しい。

「じゃあ私も優が記憶喪失になったらそうするね」

「そうかい」

勝手にしてくれ。

でもそんな可能性の低い未来を考えて泣くのは勘弁して欲しいが。

…今は嬉しそうだし、まあいいか。