鳥籠

題:君が自分を拒むなら、そのたびに窒息するほど愛してやる


「い、やっ…!」

「嫌じゃない」

知心の右手を力任せに押さえ込む。

痛いだろうが、俺も痛いしおあいこだ。

「なんで、なんで…」

いやいやと首を振りながら拒絶するが、お構いなしにカッターを取り上げる。

力で捩じ伏せるのは嫌いだが、そんなことを気にしている余裕なんかなかった。

「なんでも何も、カッター握って錯乱してる状態で放っておけるか」

とは言ってもこうなってしまえばそう簡単に落ち着いてくれないのでどうしようもないんだが。

ひとまずカッターは取られない場所に移動して、知心を抱きしめる。

離れようと腕の中でもがいているが、流石に力では負けない。

男にしては華奢な自覚はある。

それでも知心には負けない自信があった。

…まあ、知心が本気で我を忘れて暴れたら分からないが。

理性がぶっ飛んだ人間ほど何をするか分からないものはない。

「大丈夫」

物事は一切進展していないが、まず落ち着いて会話が出来るようになってもらわないと困る。

子供をあやすように優しく背中を撫でるとゆっくり体の力が抜けていった。

いつも振り回されてるので扱いには慣れてきた。

こうしれいれば落ち着くことも、下手に声を張り上げれば状況が悪化することも。

「大丈夫だよ」

これこのまま寝そうだな。

 

別に駄目ではないが何があったのか分からないまま終わりそうだ。

「うん…」

ぎりぎり聞こえるような小さな声。

思わず出そうになる溜息を気付かれないように飲み込む。

周りの奴らは知心のことを面倒臭い女だと言う。

否定はしないが、俺はそんな知心のことを好きだし大事に思っているのだから口出しはされたくない。

それで知心がいちいち病むのならいっそ誰にも会わなくて済むようにしてしまいたくなる。

…ただの学生には無理な話だな。

それに知心の夢を縛る気も毛頭ない訳で。

知心のことを縛り付ければ縛り付けるほど遠くに行きそうな気がする。

俺としては依存してくれても構わないんだけどな。

「ねむい…」

「寝るなら布団で寝てくれ」

知心が自分を嫌っていて、こうやって傷付けようとする度に優しくして懐に入っていっている自覚はある。

だからと言って自重する気なんて無いんだが。

「んー…」

自分を拒絶すればするほど、それを埋めるように俺が受け入れてやればいい。

面倒臭い女、ねえ。

俺の方がよっぽど面倒な性格してると思うけどな。