飾って?

題:君の瞳と同じ色、見惚れるような鮮やかなピアス


「フリーマーケットなんかやってたのか…」

天気がいいから、とバイト終わりになんとなく散歩をしていた。

近くの公園がいつもと違う賑わい方をしていて立ち寄った。

公園、と言っても結構な広さがある広場みたいなものだ。

なんとなく、入り難い雰囲気が漂う。

離れようとした時だった。

「あら?先名さんの所の子じゃない!」

名指しで声をかけられてしまった。

先名、なんて名字この辺では家くらいだから逃げようがない。

観念して声のした方を見ると、親と仲のいい近所のおばさんがいた。

大きくなったわねぇ、とジロジロ見られる。

どことなく居心地が悪い。

「お久しぶりです」

何も返さないのは失礼だし、と思っても挨拶くらいしか出来ない。

早く帰りたい気持ちが強い

「男の子が見に来るなんて珍しいわ~興味あるの?

どうやら、それは叶わなさそうだ。

「バイト終わりにたまたまですよ」

変に取り繕う必要もないだろう。

それに、その方がまだ帰りやすそうだし。

「そうだったの!男の子でハンドメイドマーケットに来るなんて珍しいからおばさんびっくりしちゃったわ~」

「ハンドメイドマーケット、ですか?」

フリーマーケットとは違うもののようだった。

そう言われて改めて見ると、確かに手作りっぽいものが多いように思える。

「まぁせっかくだから色々見ていって~」

「は、はぁ…」

中に行けと言わんばかりに背中を押された。

ここまで来たら適当に回ったフリをして帰ろう。

おばさんはあちこちにちょっかいをかけに行ってるし、少し中に入って別の場所から抜ければいいだろう。

そう思って人の少ない方を歩いていた。

広場の外れの方に、商品らしきものだけ置かれていて無人のスペースがあった。

なんとなく気になって近づいて見ると、どうやら席を外しているだけのようだった。

人がいたであろうスペースがある。

ガラス細工なのか、光を反射して少しキラキラしている。

他の場所よりは大人びた商品が多い気がする。

…扱ってるものがアクセサリーだからだろうか。

雫型から中に花が入っているようなものまで多種多様だ。

全体的に飾りはあまり大きくなく、ピアスが多い。

「うちの商品よ~どう?」

ピアスを見ていて気付かなかったが、店の人が戻ってきていた。

店主は少し前に俺をこの広場の中に入れた本人だったが。

「場所離れてていいんですか」

売る気があるのかないのかよくわからない人だ。

「お手伝いの子がいたからねぇ」

「今は小さい子の相手してもらってるけど」

笑いながら遊具がある方に目をやる。

釣られて見ると、小さい子の中に一人、高校生か大学生くらいの人が混ざっていた。

どうやらあの人が手伝いらしい。

「それよりなんか買っていかない?」

やはり商売なのだろう。

まじまじと見ていたし興味があると思われたのかもしれない。

「男が着けるにはちょっと…」

デザインはかなり女性的だ。

買うには抵抗がある。

そう思いながら商品に視線を落とすと、一つのピアスが目に付いた。

雫型のシンプルなピアス。

光を浴びてキラキラと反射するそれが、好きなことを話す時の知心の目みたいに輝いていた。

「それ気になるのかい?」

ひょい、と見ていたピアスを取って渡してくる。

少し焦りつつ受け取って光に翳してみる。

…どうしても知心を連想してしまう。

似合いそうだなと思った。

「それね、うちによく来てくれる子をイメージしたのよ」

興味津々なのが嬉しいのか、やけにニコニコしながら俺のことを見ている。

商品を落とさないように気をつけながらおばさんの方に目線を戻した。

「あの子好きなものやことを話す時すっごい目がキラキラして見えるのよ~」

知心みたいな人は沢山いるだろうな。

自分も好きなことについて語る時は生き生きとすると思う。

「でも特にねー好きな人のこと話す時は照れながらも嬉しそうなのよ」

自分が俺や彼女くらいの年代の頃を思い出したのか、その彼女に共感したのか頬に手を当ててキャッキャしている。

「優君はどんな子を連想したのかしら?彼女とか?」

このピアスを見て他人のことを連想したことを見抜いているようにからかってくる。

「かのっ…!」

改めて言われると少し恥ずかしい。

知心が一緒にいたらどんな反応をしただろうか。

きっと顔を真っ赤にしてへにゃっとした笑いを浮かべるんだろうな。

そこまで考えて、知心のことで頭がいっぱいになりつつあることに気が付いた。

…末期だなこれは。

「じゃあそれ安くしてあげるから彼女にあげたら?」

ニヤニヤとしながら値下げをしてくる。

「ブレゼント喜ぶわよ~女の子はそういうのに弱いんだから」

自分でも顔が赤くなってるのがわかるくらい熱くなっていくのを感じた。

「それに彼氏が自分のことを思って買ったなんてきゅんとしちゃうんじゃない?」

わざとらしく彼氏の部分を強調してくる。

この人には勝てない気がした。

 

 *

 

「何やってんだか…」

俺の手元には例のピアスがある。

結局、買ってしまった。

ご丁寧にラッピングまでしてくれている。

知心はピアスの穴を開けてないし、校則で禁止されてるから開ける気もないだろう。

そう言って断ったが、簡単にイヤリングに変えれると言われて断りきれなかった。

ピアスは器用にイヤリングに形を変えていた。

「あれ、優?」

名前を呼ばれて声の方に目をやると、そこには知心がいた。

思わず、手元の袋を隠した。

「珍しいね、こういうの来るの」

おばさんと同じことを言う。

「俺の家この辺だしバイト終わりに寄った」

嘘は言っていない。

実際、ハンドメイドマーケットをやってるなんて知らなかったし。

「ふーん」

案外興味が無いのか、返事が適当な気がする。

俺の隣に来て、自然と普段話す時のような状態になる。

「で、何買ったの?」

「は!?」

思わず噎せてしまった。

咳込む俺の背中に手を回して優しく撫でる。

「なんでそうなるの」

「さっき持ってたやつ、私が手伝ってるお店のラッピングっぽかったからさ」

どうやら、おばさんの言っていたお手伝いの子、とは知心のことだったみたいだ。

なんだかんだでそういうところはしっかり見てんだな…。

というかあの人と知り合いなのか。

「…まぁ、ちょっと」

流された、なんて口が裂けても言えない。

はぐらかしたからか、それ以上は詮索してこなかった。

渡すだけなのにやたらと緊張する。

いつもより言葉数が減っている俺を見て何かを察したのか、悪戯っ子のような笑みを浮かべている。

「じゃあ由紀さんに聞いてこようかなー」

わざとらしく動き出す。

流石におばさんに聞きに行くのはやめて欲しくて、手を掴んだ。

きょとんとした顔をこちらに向けた。

少しの間、お互いの顔を見たまま動きが止まる。

やがて、諦めたかのように隣に座り直した。

「どうしたの?」

さっきまでの煽るような表情ではなかった。

そっと知心の髪を撫でて、そのまま耳を触る。

突然のことで驚きを隠せないまま、知心の頬が赤く染まる。

「えっ、な、なに?」

耳朶を触ろうとすると、チャリ、と金属に触れた。

どうやらイヤリングを付けていたらしい。

「あ、イヤリング?」

そういうと俺の手を軽く避けて、髪を耳にかけた。

そこには、並んでいた商品と同じようなイヤリングが付けられていた。

「由紀さんの所のやつ、売り子だし付けてるの」

白をベースとした三角形の飾りがぶらぶらと揺れている。

似合ってると思うが、何か違う気がした。

「デザインは友達が選んでくれたんだけどね」

照れ隠しのように笑うその顔を見て、性別もわからない友達に対して嫉妬心が湧き上がった。

手に持っていたそれを知心に押し付ける。

「へっ?」

「プレゼント」

贈り物の渡し方ではないしかなりぶっきらぼうになってしまった。

こんなはずじゃなかったのだが。

「わ、私に?」

予想外だったのだろう、反応が鈍い。

「知心に。似合うと思ったから」

恥ずかしくなって顔を逸らした。

知心はえっえっ、と動揺している声を上げていた。

少しして、ゆっくりと袋を開ける音がしたので目線だけ知心の方に向ける。

イヤリングと同じようなキラキラした目でイヤリングを眺めていた。

「ありがとう。嬉しい」

照れながらも本当に嬉しそうに笑顔を向ける。

その目を見て、おばさんが言っていたイメージした人が誰かを悟った。