夜の電話

題:少しずつ ぜんぶ 壊れてく


「まだ告白してなかったの!?」

泊まりに来た友人…桃野結衣の叫び声が部屋に響く。

そういえばこの子はこの手の話が大好きだったなぁ、なんてことを考えている間に結衣は一人興奮しているようだった。

「めっちゃ一緒にいるじゃん!?なんで?」

「何でも何も…今の関係が楽だからだけど…」

楽と言うのは嘘ではない。

理由の大半はフラれるのが怖いからだけど。

いや、本当に。

そうなったら仲良くなったのに気まずくなる。

それが嫌なんだ。

「えー…絶対お似合いなのに…」

「知り合ってまだ数ヶ月なんだけど」

殆ど一目惚れみたいなものだって言うことも一歩踏み出せない理由かもしれない。

どこが好きかと聞かれると、気遣いが出来る所とか内面的な部分を挙げても説得力がない。

四月に知り合ってからまだちょっとしか経ってないから顔が好きなんでしょと言われれば否定できない。

正直顔は好みだし。

「うーん…」

結衣にとっては不満らしい。

この子とも専門からの付き合いだが、押しが強いと言うことは分かっている。

要は奥手気味な私がもどかしいんだろう。

「知心ちゃんさ、先名君の連絡先わかる?」

「え?そりゃまぁ…分かるけど…?」

嫌な予感がする。

そしてこういう時の勘というものは驚く程に当たる。

「電話かけよ!告白!!」

ほーら当たった。

…電話で告白するの、そんなに好きじゃないんだけどなぁ。

「この時間だよ?迷惑になりそう」

確かアルバイトをしてるはずだし、それでなくても夜遅くに突然電話を掛けるのはマイナスポイントだろう。

「出なかったら出なかったじゃない?」

「えぇ…」

 

 *

 

「1回で出なかったら諦めてね?」

「わかってるって!」

部屋にコール音が響く。

出ないで欲しい気持ちと、出て欲しい気持ちがひしめき合っていて口の中が酸っぱい。

変に緊張している。

『…っはい』

あぁ、繋がっちゃったよ。

隣では結衣が満面の笑みでジェスチャーをしている。

「ごめん、今大丈夫だった?」

当たり障りの無い話だけで切り上げたい。

どうせこの子が許してくれないので難しい気もするが。

『大丈夫だけど…何かあった?』

そりゃいきなり、それも23時くらいに掛けたらそうなるよね。

私がその立場でも同じこと思うよ。

「あー…うん…まぁ…」

なんて切り出せば良いんだろう。

大事な話、大事な話なんだけど。

他人に告白を聞かれるのも嫌だし、電話も嫌だ。

『…中易さんさ、明日暇?』

「明日?」

歯切れの悪い私に何かを察したのか、先名から提案が出てきた。

横目で結衣の方を見ると、凄いキラキラしてた。

これならいいか。

「空いてるよ」

『じゃあ明日カラオケでも行こ。話もそこで聞くから』

詳しくはまた連絡するね、とだけ言って電話は切れた。

「明日、お洒落しなきゃね」

カラオケだったら覗くことも出来ないって分かってるんだろうか。

当事者の私より楽しそうな結衣を眺めながら、言葉をそっと胸の奥にしまった。