題:少女
「知心ちゃん、来週はどうする?」
バイトが終わって帰ろうとしていたら店主の由紀さんが訪ねてきた。
「来週…あー…どうせ帰省するので一人で行ってきます」
元々連休は貰っていた。
由紀さんはお店があるから行けない事は聞いていたし、仕方ない。
「そう?ごめんね、出店がなければ一緒に行けたんだけど」
心から申し訳なさそうにする由紀さんを見ていると、あの人と本当に血が繋がっているのか分からなくなる。
「大丈夫ですよ。私もう十九になるんですよ」
いい加減、独り立ちする時期だ。
数年前までは少女でいられたけど、今はもう大人にならなければ。
「…もう十四年経つんだね」
そう呟いた由紀さんは、とても辛そうな顔をしていた。
私にとって、元々壊れかけていた歯車が壊れ切った日だった。
嘘を付いてごめんなさい。
心の中で由紀さんに謝罪した。
*
「知心」
この声は…。
あぁ、そうか。
またあの夢を見ているのか。
「知心は小さくて可愛いね」
あと何回、私はこの時間を思い返すんだろう。
忘れたくないから、夢を見たくない訳じゃないけど。
違うんだよなぁ。
「…ごめんね」
どうせ見るなら、もっと幸せな時間にしてほしい。
そんな悲しそうに笑って、私の頭を撫でないで。
この夢を見るたびに苦しめられる。
後悔するから。
*
「あー…」
眠い。
あの夢を見ると毎回こうだ。
結局、直後に目が覚めて時計を見れば午前三時。
寝直そうにも寝付けずそのまま朝になっていた。
今日は座学が多いから覚悟しなければ。
「…それにしても、なぁ」
夢を見る頻度が下がってきている。
毎日のように見ていたものが、最近じゃ数ヶ月に一回くらいだ。
そのうち見なくなって、思い返さなくなっていくのかな。
それは怖いな。
もしそれが大人になるということなら、私はまだ大人になりたくない。
自分の心の支えがなくなってしまいそうで怖い。
自衛が出来ない少女だからと、守ってくれた人たちがいなくなってしまう。
「進むしかないか」
どんなに縋り付こうと、いつか訪れる結末。
その”いつか”の為に心の準備くらいはしてかなきゃ。
あぁ、投げ出したい。