自暴自棄

題:屋上、逃避、死にたがり


「あぁ…もう…」

少し寒い廊下。

屋上に出る扉は締められていた。

当然といえば当然だし、そもそも屋上に上がった人は見たことない。

出れなくても、全部を投げ出せなくても、逃げ続けている。

いい加減前に向くべきなんだろうけど。

「無理…」

涙が零れる。

あとどれだけ努力すればいいんだろう。

きっとまだ足りない。

足りないから、認めて(あいして)もらえない。

そう思えば思うほど、沼に沈んでいく。

足掻き疲れた。

「無い物強請りはするなってことかな」

誰の返事があるでもない独り言。

無音を紛らわすためだったけど、ただ虚しいだけだった。

そっと手首を強く握る。

あぁ、ここに線を引けたら。

深く深く、抉るように描けたら。

求めていたものが得られなくても、私を見てくれるのかもしれない。

そんな最低なことを考えていると、誰かが階段を上がる音が聞こえた。

咄嗟に息を殺す。

きっとここまで上がる音ではないけど、ここに居ることを悟られないように。

知らない人に現状を見られて、どう言い訳を並べればいい?

今の回らない脳みそじゃ答えなんか出ないんだ。

気付かれないことが最適解だろう。

「何してるの」

そんな淡い期待を砕くように声がかかった。

あぁ、終わった。

ゆっくり階段の方に顔を向けると、見慣れた顔があった。

「…優」

知らない人じゃなかっただけマシかもしれない。

それでも最悪な状況に変わりはなかったけど。

「これ、置きっ放し」

ドサッと目の前に私の荷物が置かれる。

そう言えば持ってきてなかった。

トイレに行くふりをして、逃げ出したから。

「落ち着いたら帰ろ」

放っておいてはくれないみたいだ。

まぁこんな状態だったら放っておく方が難しいか。

何の感情もない表情で携帯をいじっている。

聞き出そうとはしないみたいだ。

無言が刺さる。

気まずさが私を包み込んだ。

逃げだしたい。

全部全部捨ててしまいたい。

何よりも、もう与えられないであろう愛情を求め続けるこの心を。

「ねえ」

歯を食いしばった口元を少し緩めながら目線だけ向ける。

携帯を見てたはずの目は私を真っ直ぐ捉えていた。

「行きたいところあるんだけど」

無理に笑うでもなく、怒るでもないその声は一体何を考えているんだろう。

「行けばいいじゃん」

突き放すような言葉しか出せない自分が憎い。

本当は放っておいて欲しくないくせに。

隣にいてくれるのが嬉しいくせに。

こんな歪んだ形でしか安心できない最低な人間のくせに。

「一人じゃ行きづらいからついてきてよ」

その言葉に少し驚いて顔を上げると、ちゃんと目が合った。

少し泣きそうな顔で笑顔を作る優を見て、私がまた何も見てなかったことに気がついた。

「やっと見てくれた」

嬉しそうな顔をみると、さっきまでの苦しさが和らいだ。

こうして私は、また優しさの上に胡座をかいてしまうのだ。