夕暮れ

題:息を殺した教室


静寂。

誰もいない教室に私の息の音とキーボードを叩く音だけが響く。

家じゃ集中できないからって理由で課題を学校でやらせてもらっている。

少したで  までは他にも何人か残っていたけど、気がつけば私だけになっていた。

「んー…そろそろ終わるかぁ」

外はもう少しで真っ暗になりそうだった。

夏も終わって日が落ちるのも早くなってきていた。

社会人になったらこんな風に思い耽る暇もなくなるんだろうか。

あと数ヶ月もすれば進級がどうこう、就活がどうこうで空を見る余裕すらなくなるのかもしれない。

そうなったら恋愛もうまくいかなくなってくるのだろうか。

すれ違いからうまくいかなくなって、離れていくのは前にもあった。

いや、あれは元々うまくいっていなかったな。

優とはうまくいっている…と思う。

自信はないけど、前よりはうまくいっているはず。

これもいつか崩れるんだろうか。

「…?」

廊下からドタバタと騒がしい足音が聞こえた。

なんとなく作業の手を止めて息を潜める。

教室の中で一人、息を殺して通り過ぎるのを待つ。

この時間に残っている生徒はそう多くない。

先生もこんなに足音を立てることはほぼないので、面倒の予感がした。

扉一枚隔てた向こうから、知らない声がした。

何を言っているかまでは聞き取れないが、かなり機嫌の悪そうな声だ。

知らない人でも八つ当たりしてくる人もいるからこのまま嵐が過ぎ去るのを待とう。

だって面倒事は勘弁願いたいし。

気づかれないようにそっと外を見る。

窓の向こうの夕暮れが綺麗だった。

こんな綺麗なだけの世界に生きてみたかったなぁ。

教室に静寂が戻ってからしばらく、そんなことを考えていた。