題:愛されることには、まだ不慣れで
「あ」
やってしまった。
眼鏡の奥の瞳が揺れてる。
困った時の顔だ。
「ちょ、大丈夫…?」
優は何も悪くないのに。
むしろ優しくされただけで泣いてしまった私が悪い。
「大丈夫」
「そうは見えないんだけど」
優しくされる度に、情けなくて涙が出てくる。
大丈夫、大丈夫。
泣くな、と思っていても涙は止まらない。
それどころかどんどん溢れ出てくる。
優の困った顔がぼやけていく。
「いつものことだから、気にしないで」
って言っても気にするよなぁ。
自分で言っておいて何だけど、無理な話だと思う。
優が目の前で泣いている人を放っておけるような人だと思ってないし、実際に今も困った顔をしながらも離れようとはしない。
「落ち着くの待ってるから」
そう言って優しく頭を撫でる。
あぁ、だからそんな優しくされるとダメなんだって。
涙が止まらなくなる。
でも落ち着く。
変な感じだなぁ。
「知心は本当に優しくされ慣れてないねえ…」
あ、これは困ってると言うより呆れてるな。
扱いにくい女で悪かったな。
自分でも思うわ。
「これでも知り合ってからずっと優しくしてるんだけどなあ…」
慣れてくれないと困る、と笑う声を聞きながら必死に涙を止めようとする。
けれどそんな頑張りも虚しく、必死になればなるほど降り注ぐ優しさは増していく。
「まあ泣きたいなら好きなだけ泣きな」
本当に、どうしてこんなに優しくしてくれるんだろうなぁ。
わっかんないなぁ…。
「わかんないかあ」
「へ」
「声に出てるよ」
あぁ、そういうことか。
エスパーかと思ったわ。
そもそも普段から行動を読まれてる気もするし、あながち間違いでもないのでは?
「何かろくでもないこと考えてそうだけど、知心がわかりやすいだけだからね」
それはそれでいい気分ではないな。
もう少しポーカーフェイスが出来るように頑張ろう…。
「…落ち着いてきた?」
「うん」
「なら良し」
私が泣くからとはいえ、ちょっとふざけて笑わせてくれるしそれで涙が引っ込むのもわかっているんだろう。
本当に敵わないなぁ。
「優しくされる度に泣くのはまあ…いいけど、慣れてくれないと凄い頻度で泣くことになるぞ」
「うーん…それはやだなぁ」
「じゃあ慣れてくれ」