題:抗えないから、恋なのだ
「知心ちゃんはさ、先名くんのどこが好きなの?」
学校にも慣れはじめて少し経った頃だった。
空き教室で同級生とお昼を食べるのが日課になっていた。
話す内容は大体、先生がどうとか、授業のこれがわからないとかそういう話ばかりで油断していた。
この前、先名さんと一緒に帰ったからか、こういう話題がたまに出てくる。
「どこ…だろうね」
これを恋だと自覚したのだってつい最近だ。
なのにそんなすぐどこが好きかなんて言えるんだろうか。
好きなところ、好きなところ…?
あまり意識して考えたことがなかったかもしれない。
気がつけば好きになってるわけだし、どこって言われてもそう簡単に出てくるものじゃない。
「そんな言えないような感じなの?」
「言えないっていうか…わからないっていうか…」
どうも歯切れが悪くなってしまったがご愛敬ということで。
納得がいかないような表情で首を傾げる同級生の追従から逃げるように食事を急ぐ。
どこが好きかなんてそんなに大事なことなんだろうか…。
*
「うーん…」
結局お昼はそれとなく誤魔化して逃げたけど、どこかもやもやが晴れなかった。
明確な「好き」の答えを求められている気がして、なんて答えるべきなのかわからない。
顔と答えれば中身はどうでもいいのか、性格と言えば見た目はどうでもいいのかって。
何て答えても何かしら言われる気がする。
それってどうやっても満足する答えは出せないってことじゃないのかなぁ。
上げなかった箇所が嫌いとか、そんなんじゃないのに。
「何をそんなに悩んでるの」
「店長」
大人なら答えを持っているんだろうか。
いやでも店長もこっち側の人間だし人の気持ちに鈍感かもしれない。
まぁ、話すだけ話してみればいいのか。
*
「なるほどねえ」
「気にしない方がいいんだろうなーとは思ってます。思ってるだけですけど」
「知心ちゃんとしては、どう答えても揚げ足をとられると思ったんじゃない?」
それは大いにある。
「相手のことを想う気持ちを否定されるみたいで嫌なんでしょう」
「そういうものなんでしょうか」
私の疑問は本人じゃないとわからないの一言で片付けられてしまった。
その本人がわからないから聞いているのだが、実際そうだと思うので言葉は飲み込んでおく。
これじゃまるで八つ当たりだし、それをしたって何にもならない。
この感情は私だけのもので、誰かに否定されるものでもない訳だ。
周りの一言に振り回されて悩んで、それすらも楽しく思う。
恋ってこういうものなのだろうか。