切り離して

題:星が降る


「ねむ…」

時刻は午前1時。

俺は今、街外れの丘にいる。

「無理に付き合わなくていいのに」

横で少し困った顔を浮かべている彼女の付き添い。

いくらまだ雪が降らないとはいえ、夜は冷える。

何よりも眠い。

もう少し場所があっただろう…とは言えなかった。

だってほら、そんな嬉しそうな顔をされたら。

この特等席を誰かに取られたくなかった。

「でもやっぱり寒いね」

手に息をかけながら呟く。

「ほら、手」

いやほら、俺の方が体温高いし。

自分の行動に心の中で言い訳をする。

周りに人がいないし、暗いから多分表情もよく分からないだろう。

「…もっとくっついていい?」

「ん」

今日ばかりは知心も素直だな。

軽く腕を絡めてくる。

思った通り、手は冷えきっていた。

着込んでいるせいもあって隣から伝わる体温は僅かなものだし、寒いことに変わりはない。

けど、落ち着く温もりが確かにある。

「あとどのくらい?」

「もうそろそろだと思うけど…」

こればっかりは決まった時間に起きるものじゃないし、確証なんかなかった。

「こっちに来てから見るの初めて」

知心の地元は田舎って程ではないが、星を見るのに向いている場所は多かったらしい。

確かにこっちじゃそう見れるものじゃないかもしれない。

最寄り駅からでも歩いて30分以上かかる場所。

この時間じゃ終電ももうない。

「あ、落ちた」

知心の指差した先で、沢山の星が降り出した。

今までに何度か流星群を見たことはあったが、ここまで明るく照らされているのは初めてだった。

街の灯りが無いだけでこんなにも変わるものなんだな。

人工的な明かりも、騒音もない空間。

まるで、ここだけ切り離されたような静寂が包む。

隣にいる知心は僅かに笑みを浮かべていたが、目の奥は冷めきっていた。

大方、昔のことでも思い出したんだろう。

彼女にとってこの空間が何を意味するのか、俺にはわからない。

触れない方がいいと思っている。

「さむい」

抑揚のない声で呟いたあと、ぎゅっと腕を掴まれる。

物理的な距離はないに等しいのに精神的な距離は異様に離れて感じるのは、きっと。

「俺はカイロじゃないんだけど…」

聞きたいことは沢山あったが、全部飲み込んだ。

知心の心に触れなくていい。

見てるだけで、いいんだ。