熱、夢。

題:海底で君の夢を見る


寒い。

体は熱いはずなのに寒い。

随分と久々に熱を出した気がする。

母さんが仕事に行く前に用意してくれたお粥はまだ食えていない。

というかしんどすぎて食欲も湧いてこない。

水分は取らなきゃいけないとわかっているので無理やり飲んでいるが、それでも辛いもんは辛い。

これは大人しく寝よう。

目を閉じると、すぐに意識が遠のいた。

 

 *

 

――夢を見ていた気がする。

俺の体は深く沈んで行って、足掻くことすら叶わなかった。

深い深い底でじっと上を見つめていると、遠くに明かりが見える。

手を伸ばそうにも体は動かなかった。

なんとなく、捕まえなきゃいなくなるような気がして必死に手を伸ばそうとした。

届かない、動かない。

泣きそうになった。

すると突然、何かが顔に触れた。

温かくて、酷く安堵した。

それは俺の頬を、額を優しく撫でて離れていった。

 

 *

 

「あ、起きた」

目を開けると、見慣れた焦茶色の瞳があった。

額が冷たくて気持ちいい。

「…知心?」

名前を呼ぶと笑いながらそうですよー、と目の前で手を振ってくれた。

どうやらこれは夢じゃないらしい。

本物が目の前にいる。

「優のお母さんがね、由紀さんに看病お願いしてたらしいんだよ」

勝手に説明を始める。

どうやら母さんから由紀さんへ、そこからバイトに来た知心に家の鍵が回っていたようだ。

…弱った姿は家族以外に見られたくないんだが。

「お粥、食べれそう?」

「…食べる」

あまり食欲はないが、何か食べたほうがいいだろう。

体が重い。

「食べれるだけで良いから食べたら薬飲んでね」

「おう」

体はまだダルいが昼間よりはマシだ。

味が分からないお粥を食べている間、知心はずっと俺のことを見ていた。

「…そんなに見られると食いづらい」

何を考えてるんだろうか。

どうせ大したことじゃあないんだろうが。

「顔色、来た時よりマシになったなぁって」

「そうかい…」

看病のお陰かもしれない。

素直に礼を言えば調子に乗りそうだが。

…いや、乗っても構わないが拾いきれる気がしない。

「そういえば私が来た時、私の名前呼んでたよ」

起きなかったから寝言なんだろうけど、と苦笑しながら言った。

夢に見た明かりはもしかしたら。