夏の思い出

題:準優勝


『高体連、終わりましたよ~』

2個下の後輩から報告の電話が来た。

私はもう部長では無いし、卓球も続けていないのだが。

「お疲れ様」

声を掛けると、どうも不満げな返事が返ってきた。

『見に来て欲しかったです!』

「資格試験あったから勘弁してよ」

流石に優先順位と言うものがある。

後輩の勇姿は見に行きたかったが、試験を捨てる訳にはいかないのだ。

理由が分かっている分それ以上の不満は飛んでこない。

そりゃ高校でも試験はあるし、彼女も何回か受けていたはずだから理解はあるのか。

『中学の先輩もそう言って来てくれなかったんですよね~』

「まぁその人も大変なんじゃないかなぁ」

正直その人のことは詳しく知らないので適当に相槌を打っておく。

私と同い年の男だってことくらいしか知らない訳で。

あ、あと学校は同じだって聞いた気がする。

最も、母数も多いので特定は出来なさそうだけど。

『もっと先輩と一緒に部活したかったです…』

最後が準優勝だなんて、とか言う小声は聞こえなかったフリをしよう。

私だってそれなりに気にしているのだ。

というか準優勝は地区大会の話で本当に最後の試合に関しては二回戦負けだっての。

「学年ばっかりはどうしようもないね~」

彼女は今2年生だったはずだ。

今が一番楽しい時期だろうに…。

『あの時、先輩どっか行ったと思えば顔赤くして誰かから飲み物貰ってくるしでビックリしたんですよ!』

そういえばそうだった。

「あれ、誰だったんだろうね」

悔しくて人気の無い所で一人泣いていた。

そんな時に誰かが来たのだ。

気まずそうに隣に座って、頑張ったねって声をかけてスポドリを置いて行った人。

『え、名前聞いてないんですか!?顔は!?』

「見てない」

通りすがりの優しい人だったなぁ、としか覚えてない。

それどころかちょっと忘れけてたくらいだよ。

同年代くらいだとは思うけど。

『いや…よくそんな知らない人から貰った飲み物を飲めますね…』

ちょっと引いてる声が聞こえる。

警戒心がないと言われれば確かにそうだ。

「まぁ変な人じゃなかった訳だし」

『それはそうですけど…えぇ…名乗りもしなかったんだ…』

「ん?」

私が名乗らなかったのはゼッケンとかから名前がバレていたのか普通に「中易さん」と呼ばれていたからだけど。

それにそんな、名前を聞くようなことでもない気がしたし。

『あぁいや…多分それ知ってる人で…本人の為に誰かは言わないでおきますね…』

「あ、知晴の知り合いだったのね」

それならまぁ、どこかで会うことはあるかもしれない。

会ったとしても顔は分からないし気まずそうだけど。