題:玉座
ふとした時に浮かぶ貴方の存在は日に日に大きくなっていった。
それはそれは家族や親戚の言葉みたいに、私を縛り付ける鎖になるほどに。
愛想を尽かされる恐怖で動けなくなりそうだ。
私の世界の王様は、私ではない。
所詮私は誰かの駒としてしか生きていけない。
私はその王座に座れない。
王座の前で跪くだけだ。
長い髪が似合わないと言われてバッサリ切った。
本当は長い髪に憧れて伸ばしていたけど、邪魔になったと嘘を吐いた。
その髪を見て貴方は『長い方が好きだったのに』なんて言って。
王様は切ることを許してなかったんだろうか。
切った髪への感想はそれだけだった。
似合うとも、似合わないとも言わない。
あぁ、また伸ばさなきゃ。
貴方の好きな私に成ろう。
服だって好みのものを着なくていい。
王様の好みを伺って、従うだけだ。
そうしないと今まで王座に座っていた人達にみたいに蔑まれて捨てられてしまう。
彼に依存している状態の今の私にはそれ以外無いのだ。
言われるまま切った髪、友達に似合うよと言われた嫌いな服に身を包んだ自分を鏡で見る。
「…アホくさ」
なんでこんなことをしているんだろう。
もっと自分の好きに生きてみたい。
王座に座ってみたい。
…いや、一度だけ座ったか。
高校進学を決めたあの時だけ、私の世界は私のものだった。
あの時見た自由はもう見れないだろうな。
鏡に映る私が死んだ瞳で嘲笑う。
一時でも幸せを感じて、夢を見た。
そんな想いをしてしまったから今更苦しくなった。
もう一度でいい。
あの王座に座りたい。
そう思うくらいは許して欲しい。