失敗

題:神様はいつも気まぐれで意地悪


「あー…」

意味もなく声を漏らす。

声、と言っても呻き声に近いものだが。

周りの机に散らかっているレポートの山を見る。

私の分ではないそれを見て、深い溜息を吐いた。

レポート課題は珍しいから、と協力してやってもいいと言われていた。

内容も少し難しかったのもあると思う。

同級生に協力を求められたのは記憶に新しい。

私は飽く迄も手伝うだけでやるとは言っていない。

それが何故、課題を前にいるのが私だけなのだろうか。

30分以上前にトイレに行くと行ったきり戻ってこない持ち主はどこに行ったのだろうか。

頭にくる、と言うよりも呆れ返っていた。

さて、どうしたものか。

申し訳程度に残された荷物を眺めていると、携帯の通知が鳴った。

「マナーモード切ってたんだっけ」

いつもマナーモードにしているせいで通知音を聞くのは久々だった。

画面を見ると、優からのショートメール。

『レポート終わった?』

私の分は君より先に終わってたよ、と心の中で毒突いた。

勿論、その事は知ってるから言ったところで何にもならない。

無視でも決め込もうかと思ったその時、再び携帯が鳴った。

優からの追加のメッセージ。

そこには、予想した事実があった。

『あいつら、さっき駅にいたんだけど。

サボタージュですか。

バックレですか。

私を騙すために置いていかれた荷物を見る。

貴重品類はどうせ入ってない。

無くても困らないものが殆どだろう。

可哀想に。

持ち主に見捨てられた荷物たち。

心にも無いことを考えながら返事を送る。

返ってきた文には、放っておいて帰っていいと思うと書いてあった。

荷物が気になるなら先生に事情を話せばいいんだろうが、なんだか動く気にならなかった。

誰もいない教室に響く通知音。

ただの迷惑メールだった。

件名を眺めていると、文字がぼやけた。

その事実を認めたくなくて、ギュッと目を閉じた。

 

 *

 

ー突然、頬に何かが触れた。

ひんやりとした何かが、頬を伝うそれを拭った。

冷たさに反応して目が覚める。

目を開けると、そこには優がいた。

手の冷たさとは裏腹に、顔は少し赤くて息も上がっていた。

「起きた?」

息を整えながら、少しだけ笑いかける。

時計を見ると、1時間くらい経っていた。

どうやら、机に突っ伏して眠っていたらしい。

何で優がここにいるのかはわからないが、夢ではないようだ。

どういうことかと聞こうとして口を開いた時、勢い良く扉が開いた。

「あれ、先名まだいたのか」

「あぁ、はい。中易が寝てたんで」

担任が見回りに来たようだった。

対して驚いた風でもない担任を見るに、優がいることは知っていたようだ。

むしろ、私がいることが意外なようだった。

私と優をゆっくりと見比べて、何か納得したようだ。

「なるほどねぇ」

ニヤニヤしながらそう呟いた。

「まぁ教室もう締めるから早く帰れよー」

「わかりました」

全然状況が掴めない。

「知心、帰ろ」

名前を呼ばれて我に返ると、優が私の荷物を持って既に歩き始めていた。

「あ、ま、今行く!」

楽しそうな担任を横目で見つつ、その背中を慌てて追いかけるのだった。