題:自傷
「ごめん」
苦しそうに吐き出された一言は、誰に対してでもない謝罪。
その言葉の理由に気が付いたのは、彼女が顔を伏せてからだった。
彼女の腕には大きな絆創膏。
それでも隠しきれない赤い線。
ぎゅっときつく結んだ口元から、自分が何をしたかはわかっていることが窺える。
彼女は定期的に、酷く病む。
そして、我にかえるまでその白い腕を赤く染めてゆく。
「今は痛くないの?」
俺は、止めることが出来ない。
止めたところで、彼女が救われるでもない。
…かといって、このままでいいとは思えないが。
「腕はね」
その痛々しい腕を見ながら呟く。
見えない所は痛むのだろう。
彼女はいつも、独りで抱え込んでしまう。
限界まで抱え込んで、そして、後悔をする。
何回も後悔をして、苦しんできても、治り切ることは無い。
そういう性格なのだろう。
疲れることも、苦しむことも、全部ひっくるめて彼女なのだ。
「そっか。お疲れ様」
何に対してなのかは触れてはいけない。
いくら強固な信頼関係があったとしても、触れて欲しくないことくらいあるのだ。
彼女が自分から話さない時は触れて欲しくない時だと、長年の付き合いを経て学んだ。
「これ目立つかな」
「割と?絆創膏からはみ出てるし」
うー、と小さく唸りながら俺の肩に頭を預けて凭れかかる。
この躰で周りから受ける評価を間に受けて溺れ足掻いているのか、とそんなことを考えてしまう。
彼女は昔から周りの評価を気にする人間だった。
気にしすぎて、自分を追い詰めてしまっていた。
そんな時に、何も出来なかったのが悔しい。
「まぁ、知心どうせ上着いっつも着てるから隠せるんじゃないかなー」
少しでも、その気持ちが軽くなればいい。
「んー…バイトの時カーディガン着ようかなぁ」
「そうだねぇ」
とにかく人目が気になるらしい。
構って欲しくて、見て欲しくて、頑張るくせに。
見て欲しくない素振りをする。
「…こんな深くやるの久々だったし、引かれちゃったかな」
無理して作った笑顔を向けた。
そんな顔が見たくて傍にいるんじゃない。
「引かないよ」
「どんなになっても、知心は知心でしょ?」
正反対な彼女への、俺なりの激励を。