夏祭り

題:迷子


「あいつ、どこ行きやがった…」

知心の放浪癖をナメてた。

ふらっと気になった所に向かっていくからすぐに迷子になる。

恥ずかしいから手を繋いでなかったのが仇になるとは思わなかった。

浴衣だったしそんなにあちこち歩き回れるとは思わないが、予想しないことを平然としてしまうのが中易知心という女だ。

例えば人混みが辛くなったとか言って人気の無い場所に一人で行くくらいのことはするだろう。

そうなったらどれだけ危険なのか、もうすぐ成人なんだから覚えてほしい。

心配する俺の身にもなってくれ。

「携帯繋がんねえ…」

多分鞄の中に入れたまま見ていないんだろう。

はぐれた時にどこで合流するか決めてなかったし、駅まで戻るか…?

いや、知心のことだから駅に戻るという発想は無いだろう。

「だー、くそ!」

焦ったって良いことは一つもない。

一旦深呼吸をして頭を冷やす。

連絡が付かないのは恐らく携帯の充電が切れただけだろう。

最後に見たのはどこだっただろうか。

確かリンゴ飴を買って、ちょっと屋台から離れたところで食べて…。

そのあとくらいから会話が無くなった気がする。

「…戻るか」

その辺にいる気はしないが、近くに知心が行きそうな場所はあるかもしれない。

と言うかあるはず。

 

 *

 

「当たりかあ…」

どうしてこうも予想は当たるのだろうか。

薄暗い道の先を眺めながら小さく溜息を吐く。

良くもまあこんな所を見付けるよな。

少し先に座り込んでいる知心の元へ向かいながら、小さい頃に友達とかくれんぼしたことを思い出した。

居るんだよな、やたらと隠れるのうまいやつ。

「知心」

本人はそんな気が無いんだろうが、これじゃ迷子なのか、かくれんぼなのか分からないな。

「優」

「やっと見つけた」

俺の気持ちなんぞ露知らずか、のんびりと二つ目のリンゴ飴を頬張る知心に怒る気が失せてしまった。

「それ食べたら行こう」

「ふぁーい」

本当に俺の心配なんか知らないんだろうな。

結構色々考えてたんだけどなあ…。

それも全部知心ののんきな顔を見ていたらどうでもよくなるし、許しそうになる。

つくづく甘いな、俺も。