景色

題:雪風よ、そっとぼくを殺して


「さみー…」

朝が早い日に限って寝坊したり、乗り過ごしたり。

直さなくてはと思うものの中々直らない。

まあ今日は怒られるようなことでは無いしそこまで気にしなくても良いんだが。

「あー…面倒臭え…」

うちの学校はかなり気まぐれだ。

アルバイトを推奨してる癖に土日に登校しろなんて無茶も言う。

言うなら言うでもう少し早く言って欲しい。

昨日言われていきなり休めるかと聞かれると難しいものがある。

悪態を吐きながら学校へ向かっていると、少し前に見慣れた後ろ姿があった。

「知心」

流石にこの距離じゃこえは届かなかったみたいでふりかえる様子は無い。

足元に降り積もった雪で歩き辛そうにしている背中を見ながら、声を掛けに行くか決めあぐねていた。

いつもなら気にせず近寄っていけるのに今日はそれが怖かった。

まるで別の世界を見つめている様な、不思議な空気がそこにあった。

少し朧げな足取りで学校に向かう知心はどこか

違う場所に行ってしまいそうですこし怖くなった。

「具合悪いのか…?」

現実的な考え方をするならば、余程眠いか体調が悪い辺りだろう。

きっとそうだと思うのに、さっきまでの有り得ない感覚も抜けていかない。

これじゃ知心と同じロマンチストみたいだな、と自嘲していると突然知心が振り返った。

ようやく俺に気付いた様で大きく手を振った。

軽く手を振り返して知心の元へ急ぐ。

「おはよ」

そう言った知心はハッキリとそこに存在していた。

今までの不確かな感覚はきっと気のせいだと自分に言い聞かせる。

「バイト休むの大変だった」

困った様に笑いながら話す知心に適当な相槌を打ちながら少し考えていた。

もしも、さっきの空想通りにどこかへ入ってしまったらその先に俺は居ないだろうな。

知心の望む世界に俺は必要なのだろうか。

考えるほどに前へ向かう足が重くなっていく。

「優?」

俺の異変に気付いたのだろう。

いつの間にか少しだけ先に行っていた知心が心配そうな顔を浮かべる。

「何でもないよ」

言った直後、地吹雪が起きた。

「うわぁっ!」

知心の叫び声。

積もってた分だけ視界が失せる。

視界が戻って来て、当たり前だけど知心がそこに居て。

掛かった雪を落としながら小さく溜め息を吐いた。

「風強いし早く行こ」

攫われなかったことに安堵しつつ考えを戻す。

知心が俺を置いてしまうならいっそ…。

そこまで考えて、自分が思ったことに恐怖した。