題:靴擦れ
「はい、絆創膏」
「ありがと」
差し出された絆創膏を受け取りながら短くお礼を言う。
公園のベンチに座ったまま受け取って、そっと靴を脱ぐ。
そんな様子を眺めながら、絆創膏をくれた人…優はベンチに腰掛けた。
「慣れない靴履くから」
少しだけ困ったように笑いながら言った。
慣れないパンプスを履いた足は簡単に靴ズレを起こしてしまったのだ。
折角のデートだと言うのに、台無しにしてしまった。
「返す言葉もございません」
わざと大袈裟な程に畏まった返事をする。
そんな私が面白かったのか、優は少し吹き出した。
「別にいいんだけどさ」
笑いながら答える。
自分から誘ったのに靴ズレで台無しにされたことはどう思ってるんだろうか。
…優が誘ってくれたのが嬉しくて、舞い上がっていたのは私だけど。
折角だから、と少し背伸びしたお洒落をしたらこのざまだ。
私にはまだまだお洒落は難しいらしい。
「それより、その足で帰れそう?家まで少し距離あるけど」
さっきまでの笑った顔はもうどこかに行ってしまったようだ。
真面目な顔で見つめてくる。
「大丈夫だよ。絆創膏してるし」
いくら絆創膏をしても、靴ズレをした足の痛みが消えるわけじゃない。
こういう時、帰れそうにないと言ったらどうなるんだろうか。
帰らない訳にも行かないし、免許を持たない私達に歩かずに帰る手段はなかった。
タクシーとかを使うにも金銭的なそれが弊害となる。
「その割には冷や汗かいてるみたいだね」
優の視線は冷たかった。
少しの距離、と言ってもここから駅まで歩きで5分、更にそこから15分ほど電車に乗って、また歩きで10分。
耐えきれない程ではないとは言え、30分以上痛みに耐えながら移動しなければいけないと考えるだけで嫌気がさす。
「送っていこうか?」
「えっ」
予想しなかった質問に間抜けな声が出る。
優の家と私の家はここからだと逆方向になる。
送ってもらうとなると、優からするとかなりの手間になってしまうのだ。
「なんとかなるし平気平気」
取り繕うように笑って誤魔化す。
さっき変な声を出してしまったから手遅れな気もするけど、大丈夫だと言い聞かせる。
「ふーん」
素っ気ない返事のあと、考え込むようにして黙り込んでしまった。
二人の間に気まずい沈黙が流れる。
言葉が浮かんでこないせいで、私から口を開くことは出来なかった。
少しして、優が口を開いた。
「送ってくわ。荷物貸して」
手を出して私の荷物を預かろうとする。
「えっ、でも家逆方向じゃ…」
「そのくらい別にいいよ」
拒否権はないとでも言わんばかりにピシャリと返される。
それが少し怒っているように感じて思わず背筋が伸びる。
「別に怒ったりはしてないよ」
私の様子を悟ったのか、慌てたように付け加える。
「折角だから一緒にいたいと思うじゃん?」
恥ずかしいことを簡単に言われる。
…まぁ、たまにはこういうのもいいかな。