題:頭痛
「辛い?」
小声で問いかけてくる。
あまり刺激をしないように、という彼なりの心遣いだろう。
もっとも、普段なら心地良いその音ですら今の私には凶器になりえるのだが。
「水、飲める?」
「…ゃ」
頭を押さえ、目も合わせられない私の様子から察したのか、言葉言葉を区切ってくる。
対して私が返せたのは言葉にすらならない単音。
「…俺、部屋から出てるから」
「なんかあったら携帯でもなんでもいいから、教えて?」
駆けつけるから、と一言付け加えて離れてしまった。
この痛みとはもう長い付き合いになる。
ほんの小さな音や光ですらこの状態になった私には十分すぎる程に恐ろしいものなのだ。
だけど。
それ以上に一人になることが怖い。
昔、この頭痛によって引き起こされた恐怖心は消えない。
傍にいて欲しかった。
「なした?」
少し驚いた顔をしてこちらを見る。
無意識に掴んだ手を振りほどくことは無い。
何も言わなくていい。
何もしなくていい。
ただそばにいてほしい。
「ん?」
そんな思いを知ってか知らずか、私の顔を覗き込む。
男子らしくない、可愛らしい大きな目。
困ったような表情。
「知心?」
何も喋らなければ、動くことすらしない私に痺れを切らしたのだろうか。
彼の心遣いを無碍にしてしまってるのだろうか。
我侭を言うことも、甘えることも怖い。
そっと、掴んだ手を離す。
自分の意思で離したが、実際のところ手にうまく力が入らない。
あぁ、頭が痛い。
割れてしまいそうなくらい、酷く重い。
そんな私を見て、ふぅ、と溜め息を一つついた。
そして、大丈夫と一言呟いた。
それ以上は何も言わず、ただ私の手を握っていた。
手の温もりがこれ以上ないくらいの安心感を与えてくれる。
私より暖かい手。
冷えきった私の手をゆっくりとほぐしていくような心地良さ。
頭痛のせいなのか、それともこの安心感のせいなのか。
私はゆっくりを意識を落とした。